武将の甲冑は戦で身に着ける防具としてだけでなく、周りにアピールするものでもあった

「武将の甲冑は戦で身に着ける防具としてだけでなく、周りにアピールするものでもあった」

武将が身に着ける甲冑は戦のときに身を守るためのものだと思って調べて驚きました。甲冑は戦で身を守るだけではなく、周りに自分をアピールするものでもあったのです。甲冑とは何を指すのか、武将がこだわった立物とは何か、どんなものがあったのか、興味が湧いて調べちゃいました。

 

<甲冑とは、兜と鎧のセットのことを言う>

甲冑というと鎧のイメージが強いですが、実は兜と鎧を合わせて「甲冑」と言います。甲には兜、冑には鎧という意味があるのです。

甲冑は事細かく分かれており機能性もしっかりとあるだけではなく、武将の意気込み・想いが詰まっていてファッション性も高いのです。

武将が戦で身に着ける甲冑の魅力にぐっと迫ってみましょう。

 

<甲冑はおおまかに17部位から出来ている>

戦乱の世になると、甲冑の素材も皮から金属へと変わっていきました。そのパーツは、なんと16部位もあります。さらにに短剣と刀を差し、甲冑と言われています。

1.兜の飾り・・・立物と言われているもので、立物が武将の威厳と戦への精神的なものを表し、威嚇するものとなっていた。武将ごとに違っていて、立物に込めた思いも違うのです。

2.兜鉢・・・頭を守るヘルメットの部分。鉢の中も頭を守るためにクッション作用のあるものを使い保護していた

3.吹き返し・・・矢からの攻撃を防ぐ、頭から首にかかるようになっている

4.錣(しころ)・・・後頭部と首を守る

5.目びさし・・・日の光・雨を遮断し視界をよくして、顔を守りながら、敵陣や軍勢の動きを見やすくする

6.面頬(めんぼう)・・・顔を守り、相手を威圧するため装飾。顔全体を覆う総面・鼻から下を覆う面頬・アゴを覆う半頬・猿のように頬だけを覆う猿頬・額から頬半分まで覆う半首(はつぶり)がある。

7.袖・・・肩と腕を守る

8.喉輪・・・喉と胸を守る

9.脇引・脇当・・・脇を守る

10.胴・・・胴を守る。一枚の鉄板で出来ている雪の下胴・桶川胴・縦引胴・桶川胴の表面の継ぎ目に漆を塗って平らにした仏胴・横板の上下を順々に重ねて糸で結びつけた最上胴・仏胴胸取などがある。

11.草摺り・・・腰から腿を守る

12.佩楯(はいだて)・・・腿を守る

13.すねあて・・・足を守る

14.立挙(たてあげ)・・・すねと膝を守る

15.脇差し

16.太刀

17.籠手(こて)・・・腕を守る

18.手甲・・・籠手とくっついていて手の甲と指を守る

 

これだけのパーツを身に纏っていたのかと思うと、重さも気になるところですが、この中でも武将は兜と鎧(胴)に凝っていました。

 

<武将は兜の立物に凝っていた!>

兜と鎧は体を守る役割の他に、目立つことを目的とし、自己主張したものが多く見られました。自分の威厳や権力や強さを周りに見せつけるためとも言われていて、デザインや形、までこだわっていました。兜の立物をみると、武将の考えや周りにどう見せたいかが分かって面白いですよ。

 

〇月・三日月・日輪を立物にした武将

■三日月の兜が有名な伊達男「伊達正宗」・・・伊達正宗は、自陣の装束も派手にし豪華だったことから、目立ちたがり屋だったことがうかがえる。その反面、兜の三日月に込められた思いは並々ならぬものだったうようで、三日月は「妙見菩薩」への信仰心を表したものだった。妙見菩薩は北極星を神化したもので、北極星は天空の星でも不動の星であることから、国を守り福を呼ぶ神として信仰されていました。それ以外にも、妙見菩薩は眼病の治癒の本尊と言われている。伊達正宗は、幼いころに天然痘にかかり右目を失明しています。三日月を兜の立物としていた伊達正宗は、国の繁栄と民の幸せを願いつつ、失った右目の回復を願っていたのかも知れませんね。

■日輪三日月の兜で領民を大事に思っていた「上杉謙信」・・・上杉謙信は民を大切にしていた武将として知られています。上杉謙信が立物にしたのが太陽や月の光を意味した「日輪三日月」です。これには参りました。というのも、日輪三日月は「摩利支天」を形にしたものなのですが、摩利支天は「陽炎」を神化したものだというのです。陽炎って、炎の揺らめきで出来る、ぼやんとした、あの陽炎です。はかないものとされている陽炎をモチーフに?!って思いますよね。姿が見えずとらえどころがない陽炎のように、敵をかく乱しつつ、自分の力を最大限に出し上昇気流に乗せ戦に勝つという縁起のいい、自分を守ってくれる神様だったのです。摩利支天を信仰していた武士も多かったようです。

 

〇植物を立物にした武将

■シダの葉を兜の立物にし平安の世を築いた「徳川家康」・・・シダの葉は常緑で枯れないということから、子孫繁栄と長寿をもたらすと言われています。戦に勝利した夜「大黒天」の夢をみて、これはお告げだとすぐにシダを立物とした兜を作ったと言われています。今は七福神の一人で、穏やかなイメージがありますが、当時の「大黒天」は「大国」に繋がる神道の神であり、軍神・戦闘神とされていました。徳川家康は、シダで長寿・子孫繁栄を願っていると見せながら、天下統一をひそかに狙っていたことが兜からうかがえます。やはり、噂通りの「タヌキ」だったのでしょうか。

■馬藺(ばりん)を後光のように見せて太陽の子とアピールした「豊臣秀吉」・・・豊臣秀吉は、自信の出生が平民だったことがコンプレックスだったと言われています。馬藺とは、勝負の葉の一種で、馬藺を後光のように見せるよう兜の後ろに立てていた。自分は太陽の子で、天下人なのだと兜で表現していました。自分のコンプレックスを隠している弱さを感じさせない秀吉の性格が見え隠れしています。馬藺は左右に広がり縁起がいいとされ、子孫繁栄・民の福が広がるように願っている秀吉の願いもうかがえますね。

 

〇文字を立物にした武将

■軍神「愛染明王」を崇めていた「直江兼続」・・・文字を兜にというと「愛」を思い出す方もいるのではないでしょうか。「愛」と兜につけるくらいだから、「LOVE」を大事にしているイメージですが、実は、戦の神・軍神「愛染明王」の「愛」をかたどったものなのです。軍神といっても、戦に勝つだけのことではなく、福を招き豊かにし平穏な暮らしをもたらすと言われています。しかも兜の「愛」は「LOVE]ではないものの、兼続は側室をもたず、夫婦の仲はよかったと言われています。兼続は、戦に勝つことで、民に豊かさと繁栄を、平穏な暮らしをと願っていたように感じられますね。

■法輪梵字・南無阿弥陀仏・家紋文字などを立物にした武将もいた・・・自分が信仰しる神仏の文字を立物にしていた武将もいました。織田信長の小姓・森蘭丸は「南無阿弥陀仏」を立物にしていたと言われています。南無阿弥陀仏と唱えると極楽浄土へ行けると信じられていたことも大きく関わっていたようです。

 

〇生き物を立物にした武将

■戦に勝ち続ける願掛けを立物にした「前田利家」・・・トンボを立物にしたのが前田利家です。トンボは前に進むことは出来ても、後ろには進まないことから、敵に背を向けない勝ち虫とされていました。さらにトンボは行った道と同じ道を通って帰ってくる=無事に帰るとも言われている縁起のいい昆虫なのです。利家は、戦に勝ち、妻・まつの元へ無事に帰ることを願掛けしていたのですね。

■徳川家康に忠誠を誓った「本多忠勝」・・・本多忠勝の兜の立物は「鹿の角」です。これには、忠勝が家康に忠誠を誓った思いが込められていました。桶狭間の合戦で、家康と共に三河へ戻る道中で、川が雨で増水し通れないというピンチに遭いました。織田家がいつ攻めてくるか分からないこともあり、先を急ぎたい家康と忠勝の前に、1頭の鹿が現れました。鹿は家康と忠勝を浅瀬へと導き、ピンチを脱することが出来たと言われています。浅瀬まで導いてくれた鹿に神秘さと運命を感じ、鹿のように生涯をかけて家康を守ろうと決め、鹿の角を立物にしたと言われています。徳川四天王のひとりとなり、家康の元で57回戦に出て、無傷で戻る「戦国最強の武人」と言われていました。大きな数珠を袈裟がけにしてゲンを担いで臨んだり、不安になる民や武士に言葉をかけて安心させたなどの話から、自分の勘や信仰心を大事にし、御心に従い、民に富を与えていた武将だったのではないでしょうか。

 

<兜の立物のように、鎧にも武将一人ひとりのこだわりがあった>

兜で自分の意志を明確にし、戦に臨んでいた武将一人ひとりにこだわりがあり、とても興味深いものでした。鎧にも兜と同じように、武将一人ひとりのこだわりがありました。

皮から金属へと変化し、自分の威厳や権力や強さを周りに見せつけるために、デザインや形、素材に至るまでこだわっていました。鎧では胴に信仰心の表れとして梵字・記号・経文、縁起のいいモチーフを入れたりしていました。

南蛮胴を基本として、色にこだわり、毛をつけて威圧感を出したりと、武将は戦で自分の威厳を見せるためにもこだわっていました。

ファッション性が高く、銀で包んだものや金箔を貼ったもの、黒漆や朱漆、錆地塗りなどで重厚さを出したものとバリエーションも豊かです。

自国を守り、民に福をもたらすための戦に行くのですから、やはり武将一人ひとりが持つ気持ちや意気込みは並々ならぬものだったのはないでしょうか。

さらに兜と鎧を身にまとい、堂々と旅立つ主の姿に、臣下から足軽に至るまで与える安心感があったと言われています。

戦のトップに立つ武将が背負う重さは、甲冑の重さでもあったのかな。

今回は兜の立物をご紹介しましたが、ご紹介した種類の他にも「龍」「獅子」「鬼」「扇」「動物」「魚」「貝」「楽器」「器」など、本当に多数の立物があります。

立物に込められた思いなど、ぜひたくさんの立物に触れてみてくださいね。

 

 

 

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